贈与税と相続税対策編

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1.贈与税と相続税の関係

相続税は、相続や遺贈によって財産を取得した場合に課される国税で、取得する財産価値が多いほど税率が上がる超過累進税率で課税されます。
贈与税は、個人から財産を無償や著しく有利に取得した場合に課される国税で、取得した財産価値が多いほど税率が上がる超過累進税率で課税されます。 贈与税には、生前贈与で相続税の課税逃れを防止する役割があります。
原則的な贈与税の課税方式を他の方式と区別する意味で、「暦年課税(れきねんかぜい)」といいます。
暦年課税は1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計額に対して課税されます。

対象期間:毎年1月1日~12月31日

基礎控除:110万円(毎年)

贈与税の対象者:贈与を受けた人(受贈者)

例えば、1年間で親から150万円の現金をもらった場合、基礎控除を引いた40万円が課税対象となります。
相続税と贈与税はどちらも税率が高く、最高税率は55%と理論上は半分以上の財産を税金で失うまで上がります。
特に贈与税は、相続税逃れを防止する役割を担っていますので、相続税が6億円超の相続から最高税率55%となるのに対し、贈与税は3000万円超の贈与から最高税率55%(一般税率)が適用となり、より重い税金となっています。

贈与税一般税率

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贈与税特例税率 

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祖父母から孫、父母から子など直系尊属からの贈与に適用

テーブル

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出典:国税庁

贈与と相続には持ち戻しという制度があります。
持ち戻しとは、相続開始前の直前に行われた贈与を、相続財産に加算して税額を計算することで、加算する期間は、次のように最終的に7年遡ることになっています。

  • ・2023年まで、3年遡って贈与を加算
  • ・2024年から2030年まで、1年ずつ遡り期間を延長
  • ・2031年以降、7年遡って贈与を加算

例えば、相続税対策として毎年、贈与税ゼロとなる110万円を継続して贈与してきたとしても、7年遡った場合、770万円分の贈与はなかったこととされ、代わりに相続財産に770万円を加算されることになります。
持ち戻しは、相続前の贈与対策を無効にする制度で、このように贈与税は相続税を補完する税金としてさまざまな制限が規定されています。

2.生活費、教育費は贈与税の対象外

贈与を使った相続税逃れを防止するために、重い税率になっている贈与税ですが、課税されない範囲があります。 贈与税がかからないケースにはどのようなものがあるか押さえておくと効果的な対策となります。

生活費の負担は贈与税がかからない

収入のある人が家族の生活費を負担することや、年老いた親の面倒をみる、病気がちの兄弟の面倒をみることは、自然なことです。親族間には扶養する義務があると定められてもいます。
日常生活に必要な費用であり、必要な都度直接これらに充てるための生活費であれば、贈与税はかかりません。生活費には、治療費、養育費その他子育てに関する費用などを含みます。
金額には明確な定めは無く、「生活費として社会通念上で妥当と認められる範囲内」とされていますが、余ったお金をプールしたり、一括で受けとってしまうと、贈与税が課税される恐れがありますので注意して下さい。

教育費の負担

教育費は、学費や教材費、文具費、通学費などが当りますが、これらも扶養親族が負担した場合には、贈与税はかかりません。 塾代や一人暮らしのための仕送りも妥当と認められる範囲内であれば、贈与税はかかりません。
例えば、私立大医学部の6年間の授業料は、高いところでは6千万円にもなります。
かなりの高額になりますが、請求を受けた都度に支払うならば贈与税はゼロです。
但し、まとめて一括で渡した場合は、贈与税が課税されますので注意して下さい。

3.贈与税の暦年贈与(基礎控除年間110万円)

「贈与税は年間110万円まではかからない」
最もオーソドックスな贈与の方法です。
一般的にも知られていて、贈与税対策として、毎年110万円を長期間続けている方がいます。
これは基礎控除の枠内に抑えて、贈与税ゼロで資産を移していく方法です。

  • ・1月1日~12月31日(暦年)の期間で110万円まで
  • ・贈与された人が1人で受けた合計で110万円まで

活用ポイントについて解説します。
次の場合で贈与税がゼロになるケースはどれでしょうか?

A前年の12月に100万円、今年の1月に100万円、計200万円を長男に贈与した

B今年10月に、長男に100万円、次男に100万円、三男に100万円、それぞれ贈与した(計300万円)

年間で110万円を超えなければ、贈与税は課税されません。贈与税の申告も不要です。
上のAとBのケースはどちらも贈与税はゼロで贈与税申告も不要です。
贈与税の基礎控除年間110万円を上手に活用するには、毎年の期間を区切って小刻み贈与していくことがポイントです。
この点を理解して毎年贈与を行っていけば、効果的な贈与税対策、相続税対策となります。

4.贈与税の特例の活用-相続時精算課税制度(2,500万円)

「相続時精算課税(そうぞくじせいさんかぜい)制度」とは、贈与を受けたときには一部を非課税にし、将来の相続のときにまとめて精算(=相続税として計算)する制度です。特定の条件のもとで、贈与時の税負担を軽くしつつ、生前贈与を活用できる仕組みです。

基本的な仕組み

項目内容
非課税枠累計2,500万円まで贈与税がかからない(超えた分は一律20%で課税)
対象者贈与者:60歳以上の父母または祖父母受贈者:18歳以上の子または孫
申告贈与を受けた年の翌年の確定申告期間中に選択届出書を提出
特徴一度選択すると、その贈与者からの贈与はすべてこの制度が適用される(暦年課税に戻れない)
相続時贈与した財産の価値を、相続財産に加算して相続税を計算

(1)相続時精算課税のメリット

相続時精算課税は、次のような方におすすめな制度です。

  • ・不動産や自社株など、金額が大きく評価額が変動しやすい資産を持っている人
  • ・子や孫に早めに財産を渡して、事業資金などに有効活用してもらいたい人

具体的な相続時精算課税のメリットは次になります。

①一度に多額の財産を贈与できる(最大2,500万円まで非課税)

通常の「暦年課税」では年間110万円までしか非課税になりませんが、相続時精算課税を使えば最大2,500万円まで非課税で贈与できます。不動産や株などの価値が高い資産を一括で贈与したいときに便利です。

②将来の値上がりリスクを避けられる

贈与時点の評価額で将来の相続税に組み込まれるため、早いうちに贈与すれば、値上がりした分に税金がかからないことになります。
例えば、2020年に評価額1,000万円の不動産を贈与し、20年後、評価額3,000万円に値上がりしても、相続時に加算されるのは贈与時の1,000万円のみとなります。

③ 財産の早期移転が可能となり、生前から有効活用できるようになる

子や孫が、不動産購入や事業資金に多額の資金が必要な場合など、親や祖父母が元気なうちに財産を渡して支援することができる。

④ 複数年に分けて計画的に贈与できる

一括で2,500万円を贈与することも、数年に分けて贈与することも可能で、合計で2,500万円まで非課税を活用できる。

⑤ 非課税枠2500万円を超えた分の贈与税が20%で固定され比較的低率

2,500万円を超えた贈与には贈与税がかかるが、税率は一律20%とされており、暦年課税のように最高55%となる累進課税に比べ、税率が抑えられている。

⑥ 相続時に税金を“精算”できる

贈与時に払った贈与税(2,500万円超え部分)は、相続税から差し引いて調整されるため、最終的に「払いすぎた税金」となれば、還付される。

(2)相続時精算課税と暦年課税の違い

相続時精算課税は、大きな資産を早く移すこと場合に適しています。
暦年課税は、対象者が限定されないことと、基礎控除の限度額内であれば確定申告手続きが不要で簡便なことが特徴です。

相続時精算課税と暦年課税の比較

項目相続時精算課税暦年課税
非課税枠累計 2,500万円まで非課税年間110万円まで非課税
税率非課税枠超え分は一律 20%超過額に応じて 10~55%の累進課税
適用対象贈与者:60歳以上の父母・祖父母受贈者:18歳以上の子・孫誰でも(親子以外でも)適用可能
選択の有無申告して選択する必要あり(一度選ぶと変更不可)選択不要(自動的に適用される)
贈与の都度の申告毎年の贈与について申告が必要(たとえ非課税でも)110万円を超える年のみ申告が必要
相続時の扱い贈与財産を相続財産に加算して再計算される加算されない(一定例外あり)
節税効果節税効果はあまりないが、早期移転や評価額対策には有効使い方次第で節税効果あり
不動産など高額資産向き?向いている(大きな額をまとめて贈与できる)向いていない(少額ずつしか贈与できない)
取り消し可否一度選んだら戻せない自由に利用・中止可能

(3)相続時精算課税の応用ポイント

相続時精算課税制度は、選択後は変更できず後戻りもできません。
但し、これは同一の贈与者に限られますので、贈与者が同一でなければ、暦年課税と併用できますし、相続時精算課税制度を別枠で適用することも可能です。
例えば、父から相続時精算課税の贈与を受けた場合、その父からの贈与では暦年課税は使えなくなりますが、母からの贈与は暦年課税を使うことができます。
相続時精算課税制度は、まとまった贈与を行うのに適した制度ですが、相続税の節税方法として多用される「小規模宅地等の特例」を使えなくなることに注意して下さい。
「小規模宅地等の特例」は、被相続人の居住宅地では80%の評価減を、賃貸用不動産でも50%の評価減を可能とするスタンダードな制度ですが、「相続または遺贈」で取得した財産に限定されています。
従って、相続時精算課税制度を含め贈与された不動産は「小規模宅地等の特例」が使えなくなります。
相続税の対策に大きな影響を与えることになりますのでご注意下さい。

5.贈与税の特例の活用-贈与税の配偶者控除(2,000万円)

夫婦間で、居住するための不動産を贈与する場合や、居住するための不動産を取得するための資金を贈与する場合には、最大2000万円までを上限として非課税の扱いとなる特例が「贈与税の配偶者控除」です。
贈与税の配偶者控除の適用は、生涯1度だけとなりますが、適用する年の非課税となる限度額は基礎控除の110万円とあわせて2,110万円までが非課税となります。
贈与税の配偶者控除の適用は申告が条件です。特例適用により税額がゼロになる場合でも忘れずに申告をしてください。

適用のための主な条件

要件内容
婚姻期間贈与の年の1月1日時点で結婚して20年以上経っていること
贈与の内容実際に住むための不動産またはその取得資金であること
使用目的贈与を受けた年の翌年3月15日までに、実際に居住し、その後も住み続ける見込みであること
適用回数一生に一度だけ使える(同じ配偶者間で)
手続き確定申告(贈与税申告)時に特例の適用を申請する必要あり

メリットとしては、最大2,110万円とまとまった額を非課税で贈与できることにあります。
相続税の節税としては、相続税の配偶者控除額が大きいため一般的には節税には結びつきませんが、配偶者控除額にはおさまらないほど財産額が大きい場合には効果があります。
所得税の節税として、配偶者に自宅不動産の権利を移した上で売却すると、居住用財産の3000万円特別控除を二人分使えることになり節税が可能です。
贈与税の配偶者控除は、自宅不動産の取得かその取得資金の贈与のみが対象で、同一夫婦では婚姻期間20年以上の場合に一生に一度しか使えないこと、必ず税務署への確定申告が必要であることに注意が必要です。

6.贈与税の特例の活用-住宅取得資金等の贈与特例

住宅の取得にはまとまった資金が必要です。若い世代の住宅取得を後押しするために、一定の資金援助を非課税とする「住宅取得資金等の贈与の特例」があります。
父母や祖父母など直系尊属からの贈与で、マイホームの取得や新築・増改築に使うための資金が対象になります。

住宅取得等資金の贈与の特例(非課税制度)

内容説明
対象の贈与者父母・祖父母などの直系尊属
対象の贈与目的自己居住用の住宅の取得・新築・増改築の資金
非課税枠(2024年以降)(長期優良住宅など省エネ等住宅)最大 1,000万円(その他住宅)500万円
対象の受贈者贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の人
所得制限受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること
物件等日本国内の住宅で、床面積50㎡以上240㎡以下原則として贈与年の翌年3月15日までに入居

住宅取得資金等の贈与の特例は、暦年課税や相続時精算課税と併用することもできますので、住宅取得の資金をより多く贈与で準備することも可能です。
住宅取得資金等の贈与の特例は、税制改正により非課税限度額は頻繁に変わりますので、贈与を予定する年の税制を確認しておくことと、適用には必ず税務署への確定申告が必要であることに注意が必要です。

7.贈与税の特例の活用-教育資金の一括贈与

祖父母や親などが子や孫の教育資金を非課税で一括して贈与できる制度が「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」です。 ここでは「教育資金の一括贈与の非課税制度」として説明します。
教育資金はもともと贈与税の非課税となっています。
「本来、非課税であれば、あえてこの制度を使う必要があるのか?」
という疑問が出てきますが、この制度のミソは、「あらかじめ贈与しておく」ことにあります。
例えば、今現在は幼児で、今後大学卒業までの教育費として1500万円が必要とします。
教育資金の一括贈与の非課税制度を使わない場合、中学、高校、大学と20年にわたって教育資金をその都度贈与していくことになります。 その途中で贈与しきれなかった部分は相続税の課税対象となり目減りする可能性があります。
教育資金の一括贈与の非課税制度を使う場合、幼児の時期に一括贈与した分は相続税の課税対象から外せるので目減りしません。

教育資金の一括贈与制度とは?

項目内容
贈与者祖父母・父母などの直系尊属
受贈者30歳未満の子や孫など
非課税枠学校等は、最大 1,500万円学校外は、最大500万円
使用目的学校等は、授業料、入学金、教材費、寮費など学校外は、塾代、習い事代、スポーツ教室代、予備校代など
払い出し方法金融機関で管理され、教育費に使った分を都度払い出し
有効期限贈与を受けた年の翌年3月15日までに口座開設し、契約締結が必要
制度の期限※2026年3月31日までに贈与されたものが対象(延長される可能性あり)

この制度の利用には、贈与者が銀行・信託銀行などの金融機関で「教育資金口座」を開設し、教育資金をその口座に一括で預け入れる(贈与)手続きを行う必要があります。
受贈者(子や孫)は、教育費の支払い後に領収書を提出し、「教育資金口座」から必要額を払い出します。 なお教育費の支払額は、金融機関から税務署へ報告されます。
受贈者が30歳になった時点で残額があった場合、原則としてその残額に贈与税が課税されますので、注意が必要です。
また2024年以降、贈与者の死亡時点で口座残高がある場合で、かつ相続発生(死亡前)3年以内に行われた贈与にあたる一定の場合には、相続財産に加算され相続税が課税される改正がされていますので、注意が必要です。

8.贈与税の特例の活用-障害者への贈与の特例制度(最大6,000万円)

親族内に障害者がいる場合、障害者の生活を支援するための贈与税の非課税措置があります。
しくみは、特定障害者扶養信託契約を信託銀行などと締結し、資金を拠出します。信託銀行などは資金を信託財産として管理し定期的に給付を行う、というものです。
この制度を使うことで、最大 6,000万円まで贈与税が非課税となります。

特定障害者扶養信託契約に基づく贈与(障害者特例)

項目内容
制度名障害者扶養信託制度(特定贈与信託)
対象者一定の障害を有する者(=特定障害者)・障害者手帳1級または2級
・療育手帳A
・精神障害者保健福祉手帳1級など・重度の障害を持つ20歳未満の児童
非課税枠最大 6,000万円まで贈与税がかからない(※条件あり)
贈与者父母、祖父母などの扶養義務者が信託銀行等と契約して信託
使途特定障害者の生活・療養・介護などのために、信託財産から定期的に給付される
管理方法信託銀行などにより管理・給付され、目的外に使うことはできない

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