相続税対策おすすめ選編

1.生命保険による相続税対策

生命保険は相続税対策と相性が良く、次のように活用できます。

  • (1)生命保険金の非課税枠による節税
  • (2)生命保険金による納税資金の準備
  • (3)生命保険金による遺産分割の調整

(1)生命保険金の非課税枠による節税

契約者と被保険者を同じくする生命保険金は、「500万円×法定相続人の数」までの金額が非課税として扱われます。
例えば、法定相続人の数が4人の場合、2,000万円(500万円×4人)まで非課税となり相続税の対象から除外されます。 現金や預金の場合、全てが相続税の対象となりますが、生命保険金として受け取る場合には相続税は非課税範囲までは対象外となり節税することが可能です。

(2)生命保険金による納税資金の準備

相続税の納税は原則として現金納付となっています。
例えば、財産のほとんどが不動産の場合、納税のために不動産を売却する必要に迫られる場合があります。
また、納税資金を現金や預金で用意しておく場合には、その現金や預金も相続税の対象となり相続税分が目減りすることになります。
生命保険金は、現金で受け取りますので、そのまま納税に充てることができ、納税資金として有効な対策となります。

(3)生命保険金による遺産分割の調整

配偶者や子には遺留分という他の相続人から侵されない範囲の相続における権利があります。
例えば、相続人が3人(長男・次男・三男)として、相続財産が自宅1軒だけの場合、相続財産を分ける方法は次の2つに大別されます

方法A:自宅を3人共有とする。最終的には売却して売却資金を3人で分ける

方法B:自宅は同居の子一人に相続させる

方法Bで長男が相続した場合には、長男には次男・三男には遺留分に相当する現金を支払う義務が生じることになり、争いの種となります。
この事態を想定して、生命保険金を遺留分対策として準備しておくと争いを防止することが可能になります。 
上記の例において生命保険による遺留分対策の一般的な方法は次になります。

  • ・長男に自宅を相続させ、生命保険金の受取人も長男にする
  • ・次男と三男には、長男から代償分割で遺留分として妥当な金額を支払わせる
  • ・以上を遺言書として遺しておく

2.会社を使った相続税対策

会社(法人)と相続税の節税は一見無縁に見えますが、やり方次第で大きな効果を生むことが可能です。 その具体的な方法には次の3つがあります。

  • (1)個人→法人へ資産を移し、個人の相続財産を圧縮
  • (2)法人の株式評価(自社株)を下げる
  • (3)死亡退職金の非課税枠の活用

(1)個人資産を法人に移し、個人の相続財産を圧縮

単に個人の資産を法人に移すだけでは、譲渡には対価の支払いが伴うためそのままでは節税にはつながりません。
どの個人資産を法人に移すか
法人に資産を移した後にどのように運用するか
がキーポイントになります。
ここでは、収益性のある不動産を個人から法人に移すケースを使って解説します。
収益性のある不動産を個人が持ち続けると、その個人の資産は年を重ねるにつれ増大します。増大する資産は毎年、所得税の課税を受けます。さらに相続が発生すると相続税の課税を受けます。
どちらも累進課税ですので、所得税と相続税の課税額を累計すると膨大な金額になることがあります。
収益性のある不動産を法人に取得させた場合、法人が課税を受ける前の段階で、家族を役員・従業員にしておき給与を支払うことで所得を分散させることができます。
例えば、一人で不動産所得が5000万円有る場合に比べ、法人化して家族4人で5000万円を分けて受け取るほうが、所得税は少なくすみます。一つ目の節税ポイントです。
家族を役員・従業員として所得を分散した場合、家族に分散された収益は、被相続人本人の相続税の対象からは外れます。これが2つ目の節税ポイントです。
家族は給与の支払いを受けそれをプールしておくことができれば、相続が発生した際に納税資金として活用することもできます。

(2)法人の株式評価(自社株)を下げる工夫

ここでも引き続き、収益性のある不動産を個人から法人に移すケースを使って解説します。
法人が、家族に役員・従業員として給与を払い、後に利益が残れば法人で発生した利益として「法人税」が課されます。法人税が課税された後の利益は法人に蓄積されます。
原則として、法人に残った利益は法人の株式評価として相続税の対象となりますが、相続税の評価に際して、類似業種比準価額を多く取り入れる工夫をすることで、評価を下げることが可能になります。
相続が発生する前の時期に、家族などへの給与を多くする、収益性はあるが評価の低い資産に組み替えるなどをして利益を法人に蓄積しないように財務をコントロールすることも可能です。

(3)死亡退職金の非課税枠の活用

法人が、死亡を原因として退職金を支払う場合、優遇措置があります。
非課税限度:500万円×法定相続人の数
死亡退職金は、相続税での優遇措置がある上に、所得税の課税対象にもなりません
これは生命保険金の非課税限度とは別枠となりますので、両方合わせると倍の効果を期待できます。
なお、小規模企業共済より支払われる共済金も死亡退職金としての非課税枠があります。
家業がある場合には、法人を使うことで、会社を円滑に長期で運営しやすくなります。
一方で、会社そのものが節税目的のみであると判断され実態が伴っていない場合は、税務署から否認を受けるリスクはあります。 特に、家族に給与を支払っているがその勤務実態が認められないと判断されると、損金計上を否認され、かえって税負担が重くなるリスクがありますので注意して下さい。
法人化のデメリットとしては、運営面にコストと手間がかかることです。 税理士費用、登記費用など個人に比べてコストがかかり、経理や諸届などの手間もかかります。 ある程度の規模がないとメリットが上回ってこないので、法人化を検討する際には専門家に相談されることをおすすめします。

3.貸アパート、貸マンションの取得

不動産を使った節税のなかで、メジャーな手法が貸アパート・貸マンションを使った節税です。
その基礎的なしくみについては、「相続税と不動産」を参照いただくとして、ここでは応用的な方法を解説します。

  • (1)土地と建物(貸アパート)を取得した場合
  • (2)所有している土地に貸アパートを建てた場合
  • (3)貸マンションを取得した場合

(1)土地と建物(貸アパート)を取得した場合

ここでは、1億円で5千万円の土地に5千万円の新築建物が付いたアパートを5000万円の借入をして取得したとします。 
また取得に際しての諸費用は計算上除外し、適用可能な特例は上限まで適用できるものとします。
※借地権割合60%、借家権割合30%、全部賃貸

節税対策としてアパートを購入するイメージ

土地の相続税評価の減

路線価による評価減 1000万円(20%)

  貸家建付地の評価減 720万円(18%)

   減額後の評価額  3280万円

建物の相続税評価の減

  固定資産税評価による評価減 2000万円(40%)

  貸家の評価減        900万円(30%)

   減額後の評価額  2100万円

小規模宅地等の適用

貸家建付地の評価減 2624万円(80%)

   減額後の評価額  656万円

借入金の控除

   5000万円

   減額後の評価額 -2244万円

上記の例では、5000万円の自己資金を使うことにはなりますが、相続税の評価としてはマイナス2244万円となり、この部分には相続税がかからない上に、他のプラス財産から相殺して引くことができることになります。 
なお借入金残高は返済により少なくなっていきますので、相続税評価から相殺される効果は長期的にはゼロになっていきます。
このように貸アパートは、収益を生みながら相続税評価を下げることに関して抜群の効果を発揮します。
但しあくまで貸アパートは投資に他なりませんので、次の点に充分注意してください。

  • ・空室リスクが低いエリアで取得すること
    • 空き家が増えると家賃が減り、借入金の返済に支障がでてきます
  • ・建物や設備の修繕と維持費用を適切に見積もること
    • 維持管理に関しては全部を委託することもできますが、その分収益性が下がります

なお、節税のみを目的とした取得とみなされると税務署から否認される恐れがあります。借入が過大であったり、投資額が過剰であったり、相続発生前の駆け込み取得である場合にはリスクは高まります。

(2)所有している土地に貸アパートを建てた場合

土地を既に所有している場合に、その上に貸アパートを建てた場合について解説します。
地主の方に多くみられるパターンです。
土地と建物の諸条件は、(1)土地と建物を取得(貸アパート)した場合と同じとします。

A もともと所有する土地のみの相続税評価額

  1. 土地

時価5000万円相当に対して、路線価による評価の減額を行う

  減額後の評価額  4000万円

B 所有する土地の上に貸アパートを建てた場合の相続税評価額

  1. 土地

上記「(1)土地と建物(貸アパート)を取得した場合」と同様

   減額後の評価額  3280万円

  1. 建物

上記「(1)土地と建物(貸アパート)を取得した場合」と同様

   減額後の評価額  2100万円

  1. 小規模宅地等の適用

上記「(1)土地と建物(貸アパート)を取得した場合」と同様

   減額後の評価額  656万円

  1. 借入金の控除

   5000万円

   減額後の評価額 -2244万円

Aもともと所有する土地のみの相続税評価4000万円に対し、B所有する土地の上に貸アパートを建てた場合の相続税評価はマイナス2244万円となり、6244万円もの相続税評価額を下げることができました。このように貸アパートを建てることだけで、大きな節税効果を生むことができます。

自己所有の土地に貸アパートを建てる場合でも投資としての注意が必要なことは同様です。

・空室リスクが低いエリアかどうかの確認

貸アパートの建設は、空き家のリスクが大きい場合には実施しない判断が賢明です

・建物や設備の修繕と維持費用を適切に見積もること

維持管理に関しては全部を委託することもできますが、その分収益性が下がります

(3)貸マンションを取得した場合

貸マンションは、ワンルームからタワーマンションまで多岐にわたり、それぞれ相続税評価と時価の乖離には特徴があります。

特にタワーマンション上層階は、時価に対して相続税評価額が30%となるケースが多くみられ、節税効果の高さから積極的な節税目的の投資が行われてきました。

行き過ぎた節税を是正するために国税庁はタワーマンションを含めたマンションの評価方法の見直しし行われています。

マンション評価方法の見直しは、シンプルにいうと、

「市場価格の60%水準になるよう調整する」

というものです。

調整の方法は、相続税と不動産(リンク)編 9.タワマン節税の規制強化(リンク)

をお読みください

この解説では、マンション評価が60%水準となる前提とします。マンションの土地持分は、10㎡で5000万円、建物区分は5000万円の計1億円、借入金は5000万円で取得したとします。

また取得に際しての諸費用は計算上除外し、適用可能な特例は上限まで適用できるものとします。

※借地権割合70%、借家権割合30%、全部賃貸

  1. 土地の相続税評価の減

路線価による評価減 2000万円(40%)

  貸家建付地の評価減 630万円(21%)

   減額後の評価額  2370万円

  1. 建物の相続税評価の減

  固定資産税評価による評価減 2000万円(40%)

  貸家の評価減        900万円(30%)

   減額後の評価額  2100万円

  1. 小規模宅地等の適用

貸家建付地の評価減 1896万円(80%)

   減額後の評価額  474万円

  1. 借入金の控除

   5000万円

   減額後の評価額 -2426万円

上記の(1)土地と建物(貸アパート)を取得した場合に比べてもマイナス額が大きく、節税効果が高いことがわかります。

特に注目すべきは、小規模宅地等の特例適用において算入される面積が少ないことです。

賃貸事業用の小規模宅地等の特例適用は、200㎡が面積限度となっています。

マンションの場合、高層化すればするほど区分所有者当りの敷地権の面積が少なくなります。持分面積が少ないということはその分だけ小規模宅地等の特例の面積要件を満たしやすくなるため、より多くのマンションを保有しても特例の範囲に収めることができることになります。

マンションの評価方法に規制が加わったものの、他の節税方法に比べても優位性が残っているといえます。

不動産の評価の減額については詳しくは、「相続税と不動産編(リンク)」を参照して下さい。

1.土地の評価による節税効果(リンク)

2.家屋の評価による節税効果(リンク)

3.小規模宅地等の特例による節税効果(リンク)

4.貸地、貸アパート・貸マンションなどによる節税効果(リンク)

5.その他 借入金(リンク)

6.不動産の組み換え(最適化)(リンク)

7.タワマン節税のしくみ(リンク)

8.タワマン節税の否認(リンク)

9.タワマン節税の規制強化(リンク)

4.孫への相続-世代飛ばしの相続

財産は、親から子、そして孫へと引き継がれていきます。

子世代を飛ばして親世代からその孫へと財産を引き継ぐことは相続税の節税につながります。

通常、財産は、祖父 → 子(親)、子 → 孫と2回相続されるので、相続税が2回発生します。

ところが孫へ直接渡すことで、1回の相続で済むため、相続税の総額が抑えられます。

相続税の課税財産を2億円として、比較します

(A)祖父の相続で親に2億円、親の相続で子(孫)に残額全部を引き継ぐケース

(B)祖父の相続で親に1億円かつ孫に1億円、親の相続で子(孫)に残額全部を引き継ぐケース

※法定相続人は他にはおらず、財産の目減りは相続税のみとします。

(A)祖父の相続で親に2億円、親の相続で子(孫)に2億円を引き継ぐケース

  祖父から親の相続    課税価格2億円、基礎控除3600万円、相続税額4860万円

  親から子(孫)の相続  課税価格15140万円、基礎控除3600万円、相続税額2916万円

  相続税額計 7776万円 

  財産残額  12224万円

(B)祖父の相続で親に1億円かつ孫に1億円、親の相続で子(孫)に残額全部を引き継ぐケース

  祖父から親の相続    課税価格1億円、基礎控除3600万円、相続税額2430万円

  祖父から子(孫)の相続 課税価格1億円、基礎控除3600万円、相続税額2916万円

親から子(孫)の相続  課税価格7570万円、基礎控除3600万円、相続税額594万円

  相続税額計 5940万円 

  財産残額  14060万円

(A)と(B)を比較すると、(B)が(A)よりも相続税の合計が1836万円少なくなりました。祖父の相続では、(B)の相続税は多くなりますが、親から子(孫)への相続の減少分が補うかたちです。

法定相続人ではない孫への相続は相続税が2割増しされますが、それを考慮しても世代を飛ばすメリットが大きいことがわかります。

なお、祖父母から孫に相続させるためには、法的な裏付けが必要となります。

  1. の代襲相続を除き、祖父母が次のいずれかの対策を行うことが必要になります。
  1. 遺言書で孫を受取人として指定する
  2. 生命保険の受取人として指定する
  3. 信託契約を使う
  4. 代襲相続により相続人となる

5.孫養子の効果

(1)孫を養子にするメリット

相続税の対策として孫を養子する方法があります。

孫を養子することで、法定相続人が増えます。法定相続人が増えると次の節税効果が生まれます。

  1. 相続税の基礎控除額が増える
  2. 死亡保険金・死亡退職金の非課税額が増える
  3. 相続税の計算上有利になる

祖父母から親世代を飛ばし孫に相続させることの効果を、「3.孫への相続-世代飛ばしの相続」で解説しました。

ここではさらに、孫を養子にした対策を解説します。

①相続税の基礎控除額が増える

孫養子を相談するイメージ

相続税の基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算されます。基礎控除額が増えると課税される純額が減ります。法定相続人が一人増えると600万円の節税となります。

②生命保険金・死亡退職金の非課税額が増える

生命保険金や退職金の非課税枠は、500万円×法定相続人の数で計算されます。法定相続人が一人増えるとそれぞれ500万円の節税となります。

③相続税の計算上有利になる

相続税の計算は、法定相続人が法定相続分通りに遺産を取得したと仮定して、相続税の総額を算出します。法定相続人が多いと「累進課税」が抑えられることになり、相続額が総額を抑えることができます。

(2)孫を養子にする効果

前述「3.孫への相続-世代飛ばしの相続」の中で、

(B)祖父の相続で親に1億円かつ孫に1億円、親の相続で子(孫)に残額全部を引き継ぐケース

のケース例を使って解説します。

(B1)孫養子にはしない

  祖父から親の相続    課税価格1億円、基礎控除3600万円、相続税額2430万円

  祖父から子(孫)の相続 課税価格1億円、基礎控除3600万円、相続税額2916万円

親から子(孫)の相続  課税価格7570万円、基礎控除3600万円、相続税額594万円

  相続税額計 5940万円 

  財産残額  14060万円

(B2)孫養子にする

  祖父から親の相続    課税価格1億円、基礎控除4200万円、相続税額1670万円

  祖父から子(孫)の相続 課税価格1億円、基礎控除4200万円、相続税額2004万円

親から子(孫)の相続  課税価格8330万円、基礎控除3600万円、相続税額746万円

  相続税額計 4420万円 

  財産残額  15580万円

同じ条件を使って、(B1)孫養子にはしない場合と(B2)孫養子にする場合を比較すると、(B2)孫養子にする場合が1520万円、相続税の合計額が少なくなります。

(3)孫を養子にする場合のデメリットや注意点

孫を養子にすることは相続税を少なくする効果はありますが、次のようなデメリットや注意点があります。 それぞれのご家庭ごとに向き不向きがあることにご留意下さい。

(Ⅰ)遺産分割協議を難しくし、遺留分問題を生じやすくなる

(Ⅱ)被相続人の孫養子は、相続税額の二割加算がある

(Ⅲ)相続税では養子の数として計算される人数に制限がある

(Ⅰ)遺産分割協議を難しくし、遺留分問題を生じやすくなる

養子は実子と同様の権利を持ちます。法定相続人としての相続分も実子と同じです。

実子からすると、養子が増えることによって、実子の取り分が減る結果となり、不満が生まれやすくなります。

遺言書が無い場合には、相続人により遺産分割協議を行って、遺産を分割しますが、相続人が増えるとそれだけ協議はまとまりにくくなります。養子を考える際には、遺言書の用意をセットで考えておく必要があります。

遺言書を用意した場合でも、遺留分の問題は残ります。

遺留分とは、相続分の半分までは遺言書の内容にかかわらず請求できる相続人相続固有の権利で、養子にもその権利があります。

養子になったものの、節税手段としてカウントされるだけで少ない遺産しかもらえなかった場合、他の法定相続人に対して請求をして取り戻すことも可能になります。

このように例え遺言書を残しておいたとしても、「争族」となるリスクがあることにご注意下さい。

(Ⅱ)被相続人の孫養子は、相続税額の2割加算がある

相続税額の2割加算とは、次の者以外が相続財産を取得した場合に税額の2割を加算するという規定です。

・被相続人の配偶者

・被相続人の一親等の血族

例えば、夫からみて妻や子は相続税額の2割加算はありませんが、夫の財産を兄弟が相続すると相続税が2割加算されます。

養子は、相続においては実子と同じ身分となります。法定相続分も遺留分も等しく権利を持ちます。

相続税の計算でも、「一親等の血族ではない養子」は実子と同じく2割加算の対象にはなりません。

しかし、例外的に「一親等の血族である養子」は2割加算の対象とされています。

「一親等の血族である養子」には、孫養子も玄孫(やしゃご)養子も含まれます。

孫養子と玄孫養子の相続税額が2割加算となるのは、先に解説した世代飛ばしの相続税の節税を防ぐ意図があります。

なお、相続税額の2割加算があったとしても、ある程度の節税効果は見込めます。

(Ⅲ)相続税では養子の数として計算される人数に制限がある

民法においては養子の数に制限はありません。本人が望めば何人でも養子にすることは可能です。

相続税では、無制限に養子の数を認めてしまうと相続税の税収が少なくなってしまいます。

そのため、相続税の計算では次のように養子の数に制限を設けています。

・実子がいる場合には養子は1人

・実子が無い場合には養子は2人

養子の数を増やしての節税には、人数に制限があるためこの範囲内での対策となります。

6.孫への贈与-生前贈与の効果

贈与の方法には、基礎控除110万円を使った方法などいくつかを「贈与税と相続税対策編」(リンク)で解説しました。ここでは、それぞれの贈与の方法を使って孫に贈与した場合の効果について説明します。 なお孫養子とはなっていない前提です。

(1)孫への暦年贈与

最もオーソドックスな贈与の方法である暦年贈与を使った対策について解説します。

相続税の課税財産は2億円とし、暦年贈与を行ったケース(B)と行わないケース(A)で比較します。

(A)祖父の相続で親に2億円、親の相続で子(孫)に残額全部を引き継ぐケース

(B)祖父は子(孫)に暦年贈与を10年間行い、祖父から親(子)への相続では残りを全部相続させ、親(子)から子(孫)への相続では残額全部を引き継ぐケース

※法定相続人は他にはおらず、財産の目減りは相続税のみとします。

(A)祖父の相続で親に2億円、親の相続で子(孫)に2億円を引き継ぐケース

  祖父から親の相続    課税価格2億円、基礎控除3600万円、相続税額4860万円

  親から子(孫)の相続  課税価格15140万円、基礎控除3600万円、相続税額2916万円

  相続税額計 7776万円 

  財産残額  12224万円

(B)祖父は子(孫)に暦年贈与を10年間行い、祖父から親(子)への相続では残りを全部相続させ、親(子)から子(孫)への相続では残額全部を引き継ぐケース

  祖父から親の相続    課税価格18900万円、基礎控除3600万円、相続税額4420万円

親から子(孫)の相続  課税価格14480万円、基礎控除3600万円、相続税額2652万円

  相続税額計 7072万円 

  財産残額  12928万円

毎年110万累計1100万円を孫に贈与した(B)は贈与しない(A)に比べ、704万円も相続税が減少しました。 長期間を要するとはいえ効果が大きいことがわかります。

暦年贈与を行う上で注意点があります。

①相続発生から一定期間の贈与には相続財産の課税価格に加算される規制があります

②贈与の実態が無いと名義預金扱いとされ相続財産とみなされます

③一連の贈与が一つの贈与契約とみなされると想定外の贈与税が生じる恐れがあります

①相続発生から一定期間の贈与には相続財産の課税価格に加算される規制があります

相続開始前の贈与は段階的に次のように、原則として相続財産に加算されます

段階的な導入(具体的な加算年数)

相続発生年加算期間
2024年3年
2025年4年
2026年5年
2027年6年
2028年以降7年(最大)

相続対象者に対して暦年課税を行った場合でも、相続発生年から遡るため、贈与は実質的に無効化されます。2028年以降は7年も遡るため、かなり長い期間での対策が必要となります。

但し例外があり、相続人ではなく、かつみなし相続財産を含め何ら相続や遺贈を受けなかった場合には、遡っての加算の対象者から外れます。

上記の例では、祖父から孫への暦年贈与対策を行う上で、祖父の相続において相続財産や遺贈を一切受けていない場合には適用されません。

②贈与の実態が無いと名義預金扱いとされ相続財産とみなされます

祖父母から孫へ贈与をする場合に、

「孫が幼いから銀行預金名義は孫名義にしてその通帳と銀行印は祖父母が管理している」

という方は以外に多いです。

「名義預金」は、名義が違う別の人が実質的に管理している預金をいいます。

実質的に管理しているとは、通帳と銀行印のどちらも管理している状態です。

通帳と銀行印を銀行窓口に持参すると預金を払い出すことができるので実質的な所有者というわけです。

名義預金とされた場合、相続税の計算では、その実質的な所有者のものとして課税価格に加算されます。 祖父母から孫への贈与としては認められないということになります。

名義預金とされないためには、贈与契約書をきちんと作成し、預金の場合は預金名義人専用の印鑑とすること、通帳管理も名義人が行うこと、預金はためるだけにせず何かしら本人契約の支払い口座として登録しておくこと、などを対策として行う必要があります。

③一連の贈与が一つの贈与契約とみなされると想定外の贈与税が生じる恐れがあります

毎年同じ日に同じ金額を贈与していると、当初にすべての贈与を行われているとみなされる恐れがあります。 一連の贈与を合算して贈与税が課されると、

・毎年110万円を10年間 ・・・・贈与税はゼロ

・一連の贈与として1100万円・・・贈与税は207万円

一連の贈与とされないために、きちんと毎年、贈与契約書を作成し、実際に送金日を変えて送金するなどを行って下さい

(2)孫への住宅取得資金等の贈与

住宅取得資金等の贈与特例を使うとまとまった資金の贈与が可能です。

制度については次をご覧下さい。

贈与税と相続税対策編 6.贈与税の特例の活用-住宅取得資金等の贈与特例(リンク)

相続税の軽減効果は、(1)孫への暦年贈与と同様で、一括で贈与できるところにメリットがあります。

住宅取得資金等の贈与の特例は、暦年課税や相続時精算課税と併用することもでき、住宅取得の資金をより多く贈与で準備することも可能です。

住宅を取得するという目的に沿った贈与に限定されますが、条件が合えば効果的な対策になります。

住宅取得資金等の贈与の特例は、税制改正により非課税限度額は頻繁に変わりますので、贈与を予定する年の税制を確認しておくことと、適用には必ず税務署への確定申告が必要であることに注意が必要です。

(2)孫への教育資金の一括贈与

教育資金の一括贈与特例を使うとまとまった資金の贈与が可能です。

制度については次をご覧下さい。

贈与税と相続税対策編 7.贈与税の特例の活用-教育資金の一括贈与(リンク)

相続税の軽減効果は、(1)孫への暦年贈与と同様で、一括で贈与できるところにメリットがあります。

この制度の利用には、贈与者が銀行・信託銀行などの金融機関で「教育資金口座」を開設し、教育資金をその口座に一括で預け入れる(贈与)手続きを行う必要があります。

受贈者(子や孫)は、教育費の支払い後に領収書を提出し、「教育資金口座」から必要額を払い出します。 なお教育費の支払額は、金融機関から税務署へ報告されます。

受贈者が30歳になった時点で残額があった場合、原則としてその残額に贈与税が課税されますので、注意が必要です。 

また2024年以降、贈与者の死亡時点で口座残高がある場合で、かつ相続発生(死亡前)3年以内に行われた贈与にあたる一定の場合には、相続財産に加算され相続税が課税される改正がされていますので、注意が必要です。

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