相続税・贈与税NG集
知らずに損をしないために
「そんなつもりはなかった」では済まないのが税務の世界です。申告漏れ・みなし贈与・名義預金など、実際に多くの方が陥りやすいミスと落とし穴を事例とともに解説します。
申告期限は守りましょう
申告期限のおさらい
相続税の申告期限内には、次の作業をすべて完了させる必要があります。
- 相続人の確定
- 遺産の調査と評価
- 遺産分割協議
- 申告書の作成と提出
- 税額の納付
【重要】期限を超えると特例が使えなくなります
申告期限までに申告を行わなかった場合、配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例など多くの特例を原則として適用できなくなります。納税額が多額になるだけでなく、ペナルティも加算されるため注意が必要です。
なお、贈与税は年間110万円の基礎控除以下であれば申告不要ですが、配偶者への贈与特例・相続時精算課税制度などの特例を使う場合は、納税額がゼロでも申告が必須です。
申告漏れへのペナルティ(4種類)
① 無申告加算税
期限までに申告をしなかった場合に、本来の税額に上乗せして課されます。税務署の指摘を受ける前に自主的に申告したかどうかで税率が大きく変わります。
| 申告のタイミング | 税率 |
|---|---|
| 調査通知前までに自主的に申告 | 5% |
| 調査通知後〜調査指摘前に申告 | 10%(50万円超の部分は15%) |
| 調査指摘後に申告 | 15%(50万円超の部分は20%) |
自主的に期限後申告 → 無申告加算税:5万円(5%)
税務署に指摘されて申告 → 無申告加算税:17.5万円(15%・20%)
② 過少申告加算税
申告は行ったものの、本来納めるべき税額より少なく申告していた場合に、その差額に対して課されるペナルティです。
| 修正申告のタイミング | 税率 |
|---|---|
| 調査通知前までに自主的に修正申告 | 課されない |
| 調査通知後〜調査指摘前に修正申告 | 5%(50万円超の部分は10%) |
| 税務署の調査で指摘されて修正申告 | 10%(50万円超の部分は15%) |
自主的に修正申告 → 過少申告加算税:なし
税務署に指摘されて修正申告 → 過少申告加算税:12.5万円(10%・15%)
③ 重加算税
申告に際して意図的な隠ぺいや仮装が認められた場合に課される、制裁的な重いペナルティです。
帳簿・書類の改ざん・隠ぺい、二重帳簿の作成、資産の意図的な除外、名義を偽った相続・贈与の隠蔽、架空経費の計上などが該当します。
| 区分 | 税率 |
|---|---|
| 意図的な隠ぺい・仮装による無申告 | 40% |
| 意図的な隠ぺい・仮装による過少申告 | 35% |
| 過去5年以内に無申告加算税または重加算税の徴収あり | 上記に10%加算 |
④ 延滞税
税金を期限までに納めなかった場合に課される利息相当の税金です。相続税・贈与税・所得税・法人税・消費税などの国税が対象となります。
| 期間 | 年利率(2024年4月現在) |
|---|---|
| 納期限の翌日から2か月以内 | 年2.5%(特例基準割合+1%) |
| 納期限の翌日から2か月を超えた場合 | 年8.7%(特例基準割合+7.3%) |
※利率は毎年変動します。
無意識にやってしまう「みなし贈与」
贈与は当事者の合意のもとで行われるイメージがありますが、双方の合意がなくても経済的な利益が生じていれば「贈与があった」とみなされることがあります。これを「みなし贈与」といいます。
「みなし贈与」の恐ろしい点は、当事者が無意識であるため何ら税対策をしていないことです。税務調査をきっかけに突然、多額の課税処分を受けるケースがあります。
「みなし贈与」が起こりやすい主なパターン
(1)「著しく低い価格」による譲渡-不動産・株式・その他
① 不動産の売買
例えば、5,000万円のマンションを1,000万円で子に売却した場合、差額が「みなし贈与」として課税される可能性は高いといえます。
「著しく低い価格」かどうかは法律に明確な基準がなく、裁判例の積み重ねや個別の判断によります。東京地方裁判所(平成19年8月23日判決)では、相続税評価額と同水準かそれ以上の価額による譲渡は原則として「著しく低い価額」にはあたらないと示されています。
上記裁判例を参考にすると、5,000万円のマンションを4,000万円(相続税評価額相当)で子に売却した場合、「時価の80%を下回っておらず著しく低い価格とはいえない」と判断される可能性が高いといえます。
② 不動産の名義・関連支出で生じる「みなし贈与」
不動産を共有で購入する場合、持分割合と費用負担割合が一致していないと差額に贈与税が課される恐れがあります。住宅ローン控除の活用を目的とした夫婦共有名義の場合も同様です。
また、バリアフリーリフォームを子が負担する場合など、名義が異なる建物に対して別の人が修繕・リフォーム費用を支出することも「みなし贈与」とされる恐れがあります。
③ 非上場株式・出資金の譲渡
上場株式と異なり取引相場がないため、非上場のオーナー株式や出資金は価格設定が難しく「みなし贈与」が生じやすい分野です。特に家業の会社の経営権承継では、意識的・無意識的に安価な譲渡となるケースがあります。実務上は、土地における「時価の80%基準」を参考に価格設定することが一般的です。
(2)お金の貸し借り・借金の免除・債務の肩代わり
貸したお金を「もう返さなくて良い」と免除した場合は「みなし贈与」となります。無利息・低利率の貸付けは利息相当分が対象となりますが、元本が小額の場合は影響が小さいケースが多いです。
【注意】贈与税の肩代わり
親子間の贈与で、本来受贈者が負担すべき贈与税を贈与者(親)が代わりに支払った場合、その肩代わり自体が「みなし贈与」となる可能性があります。あらかじめ専門家にご確認ください。
(3)預金の移動
夫が妻の口座に資金を移したり、親が子名義の通帳に資金を移したりすることは日常的に見受けられます。「預けているだけ」のつもりでも、年月が経つと忘れてしまい、後に「贈与されたもの」と指摘を受ける恐れがあります。
「預けているだけ」であれば、忘れないうちに一旦、返金してもらうことが賢明です。
(4)生命保険の名義変更
保険期間の途中で契約者を変更した場合、満期時に「誰が保険料を負担したか」という観点から課税関係が決まります。
満期500万円の積立保険(5年)で、3年間は親が保険料(計300万円)を支払い、その後子に名義変更。残り2年は子が支払い(計200万円)、満期金を子が受取った場合——
親が負担した300万円相当部分は「みなし贈与」として子に課税されます。
(5)離婚の財産分与
通常の離婚に伴う財産分与は贈与税の対象外ですが、不相当に多額の財産分与が行われた場合や、実質的に財産移転を目的とした形式的な離婚の場合は「みなし贈与」とされる恐れがあります。
贈与の意味を為さない「名義預金」
「名義預金」とは、実際にお金を出した人(出資者)と、口座の名義人が異なる預金のことです。名前だけを借りた預金ともいいます。
名義預金の典型例
・父親が子ども名義で貯金をしている
・祖母が孫名義の通帳を作り、通帳と印鑑を自分で管理している
・妻名義の口座に夫の収入から入金している
「名義預金」と判断されると、実質的な所有者(出資者)の財産として相続税の課税対象となります。孫への贈与として認めてもらえず、相続財産に加算されてしまいます。
名義預金と判断される主なポイント
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 出資者は誰か | お金の出どころは誰か? |
| 通帳・印鑑・カードの管理者 | 実際に持っているのは誰か? |
| 利息の使い道 | 誰がその利息を受け取り、使っているか? |
| 名義人の意思 | 本人が内容を把握・管理していたか(未成年の場合は特に問題となりやすい) |
名義預金とされないための対策
- 贈与契約書をきちんと作成する
- 預金口座は名義人専用の印鑑を使用する
- 通帳の管理は名義人本人が行う
- 預金はためるだけにせず、名義人本人の支払い口座として実際に活用する
へそくり・タンス預金の忘却
タンス預金とは、金融機関に預けずに自宅(タンス・金庫・本棚・床下など)で現金を保管することです。「税務署には知られないだろう」という誤解から行われるケースがありますが、タンス預金は税務署から重点的にチェックされる対象です。
税務調査での主な調べ方
- 通帳の出入りを過去10年分まで遡り、「現金引き出し」の流れを徹底チェック
- 家の中を実地調査。タンス・金庫・仏壇・押し入れ・冷蔵庫の中等を目視確認
- 収入・支出・貯金残高と生活実態の整合性チェック
- 相続人・親族へのヒアリング(現金保管の状況、金庫の存在等)
- 過去の贈与記録と実際の使用状況の確認
【その他のリスク】
タンス預金は税務リスクだけでなく、盗難・火災による消失リスクや、認知症・死亡時に家族がその存在を知らず相続財産として活用できないリスクもあります。どうしても現金保管が必要な場合は100万円以内に抑え、遺言書やメモで家族に周知しておくことをおすすめします。
一次相続対策だけではNG
相続税の対策は、配偶者が相続人に含まれる「一次相続」だけでなく、その後に配偶者が亡くなって子世代のみが相続人となる「二次相続」を見据えたトータルプランニングが必要です。一次相続だけを最適化すると、二次相続を含めたトータルの税負担が増えるケースがあります。
(1)二次相続との関係
財産総額2億円(一次相続:配偶者+子2人、二次相続:子2人)で配偶者の税額軽減を最大限適用した場合、財産配分のパターンで比較します。
| 相続内容 | (A)配偶者が多く取得 | (B)子が多く取得 | ||
|---|---|---|---|---|
| 取得額 | 相続税(概算) | 取得額 | 相続税(概算) | |
| 一次相続 (総額2億円) |
母:1.6億円 子2名:各2,000万円 |
計 540万円 母0・子各270万円 |
母:5,000万円 子2名:各7,500万円 |
計 2,025万円 母0・子各1,012万円 |
| 二次相続 (母の財産) |
子2名:各8,000万円 | 計 2,140万円 | 子2名:各2,500万円 | 計 80万円 |
| 合計 | 約 2,680万円 | 約 2,105万円 | ||
(A)は一次相続の税負担が1,485万円少ないものの、一次と二次合算ではトータルで575万円多くなりました。
二次相続では相続人数が減少するため、基礎控除額・生命保険金非課税枠・死亡退職金非課税枠がいずれも縮小します。また配偶者の税額軽減が使えないことも二次相続の税負担増加の大きな要因です。
基礎控除額:3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数
生命保険金非課税枠:500万円 × 法定相続人数
死亡退職金非課税枠:500万円 × 法定相続人数
(2)配偶者の税額控除特例と二次相続
夫婦ともに資産を持つケースでは、二次相続対策がさらに重要になります。夫の財産2億円に加え、妻が元来1億円の個人資産を保有している条件で比較します。
| 相続内容 | (C)配偶者が多く取得 | (D)子が多く取得 | ||
|---|---|---|---|---|
| 取得額 | 相続税(概算) | 取得額 | 相続税(概算) | |
| 一次相続 (夫:2億円) |
母:1.6億円 子2名:各2,000万円 |
計 540万円 | 母:5,000万円 子2名:各7,500万円 |
計 2,025万円 |
| 二次相続 (母の財産 計2.6億 or 1.5億) |
子2名:各1.3億円 | 計 5,320万円 | 子2名:各7,500万円 | 計 1,840万円 |
| 合計 | 約 5,860万円 | 約 3,865万円 | ||
(C)は(D)より一次・二次合算で1,995万円も多くなりました。財産配分を変えるだけでこれほどの差が生じます。夫婦ともに資産を持つケースが増えている昨今、二次相続対策はかつてなく重要です。
(3)小規模宅地等の特例と資産配分
小規模宅地等の特例は、一次相続でなるべく子に適用したほうが有利です。2億円のうち1億円が貸家建付地(評価額50%減額後:5,000万円)のケースで比較します。
| 相続内容 | (E)配偶者が貸家建付地を全取得 | (F)子2人が貸家建付地を全取得 | ||
|---|---|---|---|---|
| 取得額 | 相続税(概算) | 取得額 | 相続税(概算) | |
| 一次相続 (総額1.5億円) |
母:1.1億円(土地5千万・預金6千万) 子2名:各預金2,000万円 |
計 400万円 | 母:5,000万円(預金のみ) 子2名:各土地2,500万+預金2,500万 |
計 996万円 |
| 二次相続 | 子2名:各5,500万円 | 計 960万円 | 子2名:各2,500万円 | 計 80万円 |
| 合計 | 約 1,360万円 | 約 1,076万円 | ||
(F)の方がトータルで284万円少なくなりました。配偶者は税額軽減特例により納税額がゼロになることも多く、この場合は税額軽減の恩恵がない子に小規模宅地等の特例を適用するほうが特例をムダなく活用できます。
子が優先的に取得すべき資産
不動産・業績好調な自社株・開発計画地域の土地など。評価がまだ低い一次相続時点で子に移転しておくことが有効です。
賃貸住宅など安定収益を生む資産。配偶者が保有し続けると収益が相続財産として累積し、二次相続の課税対象が膨らみます。
相続税の計算は複雑であり、最適な財産配分はご家庭の事情・相続人の構成によって異なります。二次相続までを含めたトータルプランニングは、税理士など専門家へのご相談をおすすめします。