前回ブログ(11/18競馬の季節 馬券払戻金の税金を考える)では、馬券払戻金の税金について取り上げましたが、その後、タイムリーなニュースがありました。
当たり馬券配当30億円、外れは経費?…裁判/2012年11月29日読売オンライン
ニュースの概要
・課税処分を受けた男性は、過去の戦績データから競馬予想ソフトを独自に開発。インターネットを使って07~09年の3年間に計約29億7千万円分の馬券を購入、計約30億円1千万円の配当を得た。馬券による所得の申告は行っていなかった。
・大阪国税局は、配当を得た30億円から当たり馬券の購入額1億円だけを必要経費として差引き、約29億円の一時所得に対して無申告加算税を含め約6億9000万円の追徴課税を行った。あわせて脱税事件として大阪地検に告発した。
・課税事件については大阪国税不服審判所で審査請求中。所得税法違反については、大阪地裁で公判中。
競馬の必要経費が争われる非常に珍しいケースですが、ポイントは、
「外れ馬券の購入費用が必要経費となるか?」 です。
外れ馬券の購入費用は総額約29億7千万円もあり、これを差し引けるか否かで天と地ほどの違いがあります。
差引きできない[大阪国税局側]・・一時所得約29億円(=馬券配当30億円-当たり馬券の購入額1億円)
差引きするべき[男性側]・・・・・・・・利益約1億円 (=馬券配当30億円-馬券購入額約29億円)
「1億円しか手元に残っていないのに、6億9000万円も税金を払えとはそんなご無体な!」 男性側の反論は自然な感覚でしょう。
しかし大阪国税局の処分は、従来からの取扱いに沿ったもので、次がその根拠となっています。
・競馬の馬券の払戻金等は一時所得とする(所得税基本通達34-1)
・一時所得の収入から控除できる支出金額は、その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る(所得税法34条2項)
つまり「馬券払戻金を得るために直接必要であった支出は、当たり馬券の購入額だけ」という論理です。
筆者は前回のブログで、外れ馬券を必要経費にできるケースもあるのではないか? と問題提起しました。
今回はこの私見について捕捉します。
(1)通達に従って馬券払戻金を一時所得と見る場合
一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額と特別控除額を控除した金額(所得税法34条2項前段)となっています。「総」収入ということは年間分を合計するため、外れ馬券はゼロの収入を得るための支出として一時所得内で通算できる、と考えられなくもないです。そう考えるならば、外れ馬券は馬券払戻金と相殺できることになります。
(2)馬券払戻金でも一時所得ではないものがあると見る場合
一時所得は、他の所得に属さない所得で、かつ営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの(所得税法34条1項)と規定されています。今回の事例は、「継続的行為から生じた所得」であり事業性のある所得と見ることも可能と思われます。そう考えるならば、外れ馬券も必要経費として控除できることになります。
そもそもなぜ、競馬の馬券の払戻金等は、一時所得なのか?
一時所得は、他の所得に属さないという消去法的に扱われている所得で、次のように雑多なものが入っています。
・内容生命保険契約等に基づく一時金、損害保険契約等に基づく満期返戻金等
・懸賞の賞金等
・従業員の発明等に基づく報奨金で一定のもの
・借家人のうける立ち退き料
・株式を取得する権利による所得
・法人から受ける贈与によるもので一定のもの
・競馬の馬券の払戻金等
他の一時所得と比べて、競馬の馬券の払戻金等は異質です。それは、「かなり高い確率で損失が発生する」からです。他の所得は、経費や損失が所得を上回ることはあまり考えられません。
「他に持って行きようがないから競馬の馬券の払戻金等は割り切って一時所得とした」のかな? と筆者は思います。
今回は課税処分だけを取り上げましたが、ちょっと難しくなってしまいましたね。