貸ビル業界の大物が脱税容疑で摘発されました。
丸源ビル社長、8億6200万円脱税容疑で逮捕/2013.3.5読売オンライン
摘発の理由は、一部のテナントの賃料を売り上げから除外したり、所有するビルを売却したように装って架空の損失を計上したりして、2011年12月期までの3年間で約28億8400万円の法人所得を隠し、約8億6200万円を脱税したという疑いです。税務調査回避のため、グループ会社の設立・清算、商号変更、本店移転を繰り返し行っていたようです。
不動産業は、査察による告発件数では例年上位の“調査されやすい”業種です。(注)
不動産の所得は把握されやすいのですが、脱税事件はあいかわらず多いですね。
この事件も、もともとは節税から始まったものがエスカレートした印象があります。
その節税というのは、
「毎年の所得に見合う経費を新規取得で生み出し、税金をゼロにする」
というものです。
不動産賃貸業の場合、賃料収入が比較的安定しているため、持ち続けていればそのうち投資額を回収できます。借入金の返済が少なくなると黒字になり税負担が生じますが、これを帳消しにするような借入金返済があれば、つまり新規取得をしたら税負担が無くなります。
しかし税負担を無くすことが目的化すると、“やめられない、とまらない”状態となり、新規取得を繰り返す羽目になります。
不動産価格が上がっている状況では、このモデルは上手く廻ります。借入金で取得した物件の資産価値が上がっているからです。保有を続けても譲渡しても損はしませんし、借入金の担保価値も上がっています、新たに取得してさらに事業を拡大できます。
ところが不動産価値が下がる状況では、このモデルは逆回転します。借入金返済が長くなる上、借入金で取得した物件の資産価値が下がり担保価値も下がるからです。これにより、新規取得そのものも難しくなります。
プリンスホテルやダイエーは、不動産バブルの波にのりこの手法で事業を急拡大させましたが、その後のバブル崩壊で資産が劣化しリストラの憂き目にあいました。
今回の事件に至ったのも、「資産劣化により新規借入が先細りした」、または「投資妙味のある対象が無く新規取得を行わなかった」、ことによるものではないかと思われます。
ところで、上の方で、「不動産の所得は把握されやすい」と書きました。少し補足します。
実は、不動産の所得は把握しやすくするための仕組みがいくつも設けられています。
◆不動産の登記情報は、税務署と所在市町村に通知される
所有権移転の情報を元に、譲渡した人が申告を行っているかチェック可能です。
◆不動産使用料など、支払調書の提出義務がきめ細かく定められている
テナントは支払った賃料を経費に計上しますが、これらは調書として税務署に提出されます。
これ以外でも、個人事業者は申告書の内訳明細に相手先や支払額を記載することになっています。
ほぼガラス張りの状態です。