1.申告期限は守りましょう
(1)申告期限
①相続税の申告期限
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
申告期限までに相続税の納付も行っておく必要があります。
例えば、被相続人が5月15日に亡くなった場合、翌日の5月16日が起算日となり、翌年の3月15日が申告・納付期限となります。
この期限までに行っておくべき項目は次になります
- 相続人の確定
- 遺産の調査と評価
- 遺産分割協議
- 申告書の作成と提出
- 税額の納付
申告期限まで申告を行わなかった場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの特例の多くを、原則として適用できないことになりますのでご注意下さい。
②贈与税の申告期限
贈与税の申告期限は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までです。
申告期限までに贈与税の納付も行っておく必要があります。
例えば、2024年中に贈与を受けた場合、申告期間は 2025年2月1日〜3月15日となります。
申告が必要なケース:
1年間の贈与額が 基礎控除(110万円)以下となる場合、申告は不要ですが、納税額がゼロであっても、配偶者への贈与特例や相続時精算課税制度などの特例を使う場合には、必ず申告が必要です。
(2)申告漏れへのペナルティ
申告漏れがあった場合には、ペナルティが課されます。
ペナルティには、次の4種類があります。
- 無申告加算税
- 過少申告加算税
- 重加算税
- 延滞税
それぞれに該当する場合には、本税に上乗せして課税されます。
①無申告加算税
無申告加算税は、期限までに税金の申告をしなかった場合に、本来の税額に上乗せされて課されます。無申告加算税は、税務署の指摘がある前に自主的に申告したかどうかで税率が変わります。
無申告加算税の税率
調査通知前までに自主的に申告 | 5% |
調査通知後から調査指摘前までに申告 | 10%(50万円超の部分は15%) |
調査指摘後に申告 | 15%(50万円超の部分は20%) |
例えば、贈与税額100万円の申告を行っていなかった場合
自主的に期限後申告 → 無申告加算税は 5万円(5%)
税務署に指摘されて申告 → 無申告加算税は 17.5万円(15%・20%)
②過少申告加算税
過少申告加算税は、税金の申告をしたけれど、本来納めるべき税額より少なく申告していた場合に、その差額に対して課されるペナルティ(加算税)です。
過少申告加算税の税率
調査通知前までに自主的に申告 | 課されない |
調査通知後から調査指摘前までに申告 | 5%(50万円超の部分は10%) |
税務署の調査で指摘されて修正申告した場合 | 10%(50万円超の部分は15%) |
例えば、贈与税額200万円に対して100万円が過少となっていた場合
自主的に修正申告 → 過少申告加算税は 無し
税務署に指摘され修正申告 → 過少申告加算税は 12.5万円(10%・15%)
③ 重加算税
重加算税は、申告に際して、意図的に隠ぺいや仮装を行った事実が認められる場合に課される制裁的な思いペナルティです。
重加算税が課されるのは次のようなケースです。
- 帳簿や書類の改ざん・隠ぺい
- 二重帳簿の作成
- 売上や資産の意図的な未記載・除外
- 名義を偽って贈与や相続を隠した場合
- 架空経費の計上、ウソの申告
※悪質性の有無は、税務署の判断によります
重加算税の税率
意図的な隠ぺいや仮装による無申告 | 40% |
意図的な隠ぺいや仮装による過少申告 | 35% |
過去5年以内に無申告加算税又は重加算税の徴収有り | 上記に10%加算 |
④延滞税
延滞税は、税金を期限までに納めなかった場合に本税の他に課される利息で、納付期限からの日数に応じて金額が変わります。
対象になる税金
相続税、贈与税、所得税、法人税、消費税などの国税が対象です。
延滞税の計算
期間 | 年利率 |
納期限の翌日から2ヶ月以内 | 年2.5%(特例基準割合 + 1%) |
納期限の翌日から2ヶ月超えた場合 | 年8.7%(特例基準割合 + 7.3%) |
※2024年4月現在場合。利率は毎年変わります
2.無意識にやってしまう「みなし贈与」
贈与は、贈与する人と受贈する人の合意のもとに行われることが一般的なイメージですが、双方の合意がなくても経済的な利益が生じていれば、「贈与があった」とみなされます。
これを「みなし贈与」といいます。
例えば、5千万円のマンションを1千万円で売却する人は通常、いません。
しかし、相手が家族や親族である場合には、安く譲っても良いと考える人は多いのではないでしょうか。
この通常よりも安く譲った差額は、相手に経済的利益を与えたことになり、「みなし贈与」となります。
「みなし贈与」の怖いところは、双方が無意識であるため、税金対策をしていないところにあります。
税務調査をきっかけに、「みなし贈与」を指摘され突然、課税処分を受けることがあります。
当事者にとっては、寝耳に水の事態です。
しかも贈与税は、税率が高く重い税金の一つですから、無対策の状態で課税処分となれば、相当に重い税金となることがあります。
このぜひとも回避したい「みなし贈与」にならないように、ひととおりのパターンを理解しておく必要があります。
「みなし贈与」と起こりやすいパターン
- (1)「著しく低い価格」による譲渡 不動産、株式、その他財産
- (2)借金の免除、支払債務の肩代わり
- (3)預金の移動
- (4)生命保険の名義変更
- (5)離婚の財産分与
(1)「著しく低い価格」による譲渡 -不動産、株式、その他財産
①不動産の売買
例えば、5千万円のマンションを1千万円で、子に売却した場合には差額が「みなし贈与」として課税される可能性は大です。
では、5千万円のマンションを4千万円で、子に売却した場合にも差額が「みなし贈与」として課税されるかというと必ずしもそうとは限りません。
「みなし贈与」として課税されるかどうかは、法律によって規準が明確に示されているものでもないため、裁判例の積み重ねや個別の判断によることになります。
参考となる裁判例となる「東京地方裁判所の平成19年8月23日判決」では、次のように判示しています。
「相続税法7条にいう「著しく低い価額」の対価とは、その対価に経済的合理性のないことが明らかな場合をいうものと解され、その判定は個々の財産の譲渡ごとに、当該財産の種類、性質、その取引価額の決まり方、その取引の実情等を勘案して、社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって行うべきであるところ、相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合は、原則として「著しい低い価額」の対価による譲渡ということはできず、例外として、何らかの事情により当該相続税評価額が時価の80パーセントよりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って、「著しく低い価額」の対価による譲渡になり得ると解すべきである。」
この裁判例によるならば、5千万円のマンションを4千万円で、子に売却した場合には、
「時価の80%より低くなっておらず、著しく低い価格とはいえないので、みなし贈与にはあたらない」となる可能性が高いといえます。
②不動産名義、不動産関連支出で生じる「みなし贈与」
不動産を共有で購入する場合、不動産の持分と取得費用の負担割合を同じにしておかないと、差額に贈与税がかかる恐れがあります。
住宅ローン控除をダブルで使うために夫婦共有で不動産を購入される方も多くです。
持分となる名義と負担割合に差額が出ないようにご注意下さい。
親が子の住宅取得のサポートで、持分として一部を親名義にされる方や、建物を親が建て、子の名義で登記される方がまれにいらっしゃいます。
この場合も、共有名義の持分割合が負担割合とあっていなかったり、お金の出どころと名義が違っていたりすると、「みなし贈与」となる恐れがあります。
年老いた親のためにバリアフリーリフォームを出してあげる子は親孝行ですばらしいと思いますが、これも「みなし贈与」となる可能性があります。
このように名義が違う建物を、別の人が修繕したりリフォーム代を支出したりすることは、経済的利益が発生した判断され「みなし贈与」とされる恐れがあります。
なお、子が家を取得するために親がその資金を贈与することは特例が用意されており、一定金額まで非課税とされています。
③株式や有価証券の売買
株式や有価証券も不動産と同じく、著しく安く譲った場合、「みなし贈与」となります。
上場株式であれば、取引相場がありますので、著しく安く譲るといったことはあまり起こりません。
「みなし贈与」が生じやすい注意すべきケースは、非上場のオーナー株式や出資金の譲渡です。
非上場の株式や出資金の場合、取引価格が無く参考にする情報が少ないため、設定価格に迷うことが多々あります。
特に家業の会社の経営権を子に承継させるようなケースでは、時価よりも安く譲ろうという意識も働くため著しく安い価格で譲渡されていることが往々にして見られます。
なお、非上場の株式や出資金はそもそも価格設定が難しくはありますが、土地価格における「時価の80%規準」を参考にして決定することは実務的に用いられています。
④その他の資産の譲渡
美術品や貴金属も立派な資産ですから、高額なものは。「みなし贈与」を意識しておく必要があります。
テレビの「なんでも鑑定団」でも、祖父から譲り受けた、我が家に古くから継承されてきた、といったエピソードが語られますが、これらも高額であれば贈与税の対象となります。
時価よりも安く譲渡した場合には、原則として「みなし贈与」となり、さらに価格が時価の80%未満であれば課税を受ける可能性は高くなります。 なお借金を返済する必要があり、その目的で財産を安く譲渡する場合は、非課税とできる例外規定があります。
(2)お金の貸し借り、借金の免除、支払債務の肩代わり
親子間に限らず友人間でもお金の貸し借りをすることはあります。
例えば、200万円貸したが、「もう返さなくて良い」と免除すると「みなし贈与」となります。
元本の免除はしないが、無利息や利息をかなり低くする場合は、利息相当分が「みなし贈与」となります。
但し元本が相当大きくない限り、利息は通常は少額となるので「みなし贈与」にひっかかることは少ないです。
本来、他の人が支払うべきものを代わりに支払うことは、「みなし贈与」となります。
例えば、贈与税は贈与を受けた側が支払うべき税金ですが、親子間の贈与においては、贈与した親が贈与税まで支払ってあげることが散見されます。 このように税金を代わり払ってあげた場合、その肩代わりは「みなし贈与」になると想定して準備しておく必要があります。
(3)預金の移動
家族内であっても安易に預金を移動させると「みなし贈与」と指摘される恐れがあります。
夫が妻の口座に資金を移したり、親が子の名義の通帳に資金を移したりすることは、よく行われている印象です。
「預けているだけだから」といっても、何年も経ってしまうとその預けていることを忘れてしまうものです。
「税務調査は忘れた頃にやってくる」ではないですが、何年も経った後に「既に贈与されたもの」と指摘を受ける可能性があります。
このようなことにならないよう、「預けているだけ」であれば、忘れないうちに一旦、返金してもらっておくことが賢明です。
(4)生命保険の名義変更
生命保険は長期にわたる契約ですから、契約の途中で名義を変更することがあります。
この場合も「みなし贈与」となる可能性があります。
生命保険の「みなし贈与」は、保険金受取時に現実化します。
例えば、満期に500万円を受け取れる期間5年の積み立て保険で、保険料は年間100万円、トータルで500万円だとします。
※利息と配当は便宜上無いものとします。
この保険を契約から3年は保険料を親が払ってから子に契約者を名義変更し、残り2年は子が保険料を払い、満期金を子が受け取ったとします。
契約者:親 → 3年後に子に名義変更
受取人:契約者と連動する規定
保険料:親支払額300万円、子支払額200万円
この場合、5年後の満期保険金は子が受け取ることになりますが、その際に親が負担した300万円は「みなし贈与」として課税されます。
生命保険契約では、保険金の受取りに際して、「全期間を通じて保険料を支払ってきた人はだれか?」という関係性で課税関係は決まります。
上記の例では、300万円は保険金を受け取った子が負担したものではないので、それに相当する部分に「みなし贈与」があったと判断されることになります。
生命保険は長期にわたる契約のため、途中で保険料を支払うことができなくなったり、家族内の事情があったり、変更が必要となることが多いです。
しらずしらずのうちに「みなし贈与」となっていることがありますので注意して下さい。
(5)離婚の財産分与
離婚に伴う財産分与で得た場合には、正当な権利に基づくものとして贈与税はかかりません。
時折、不相当に多額に財産分与をするケースがあります。
形式的な離婚おいて起こりえるケースですが、このような離婚の財産分与の制度を利用するような場合には、「みなし贈与」とされる恐れがあります。
3.贈与の意味を為さない「名義預金」
「名義預金(めいぎよきん)」とは、実際にお金を出した人(出資者)と、預金の名義(口座の名前)が違う預金のことです。言い換えると、名前だけ借りている預金です。
名義預金の典型的な例
- お父さんが子ども名義で貯金をしている
- 祖母が孫名義の通帳を作ってコツコツ入金している
- 奥さんの名前で作った口座に夫の収入から預金している
祖父母から孫へ贈与をする場合に、
「孫が幼いから銀行預金名義は孫名義にしてその通帳と銀行印は祖父母が管理している」
という方は以外に多いです。
「名義預金」は、名義が違う別の人が実質的に管理している預金をいいます。
実質的に管理しているとは、通帳と銀行印のどちらも管理している状態です。
通帳と銀行印を銀行窓口に持参すると預金を払い出すことができるので実質的な所有者というわけです。
名義預金とされた場合、相続税の計算では、その実質的な所有者のものとして課税価格に加算されます。 祖父母から孫への贈与としては認められないということになります。
名義預金とされないためには、贈与契約書をきちんと作成し、預金の場合は預金名義人専用の印鑑とすること、通帳管理も名義人が行うこと、預金はためるだけにせず何かしら本人契約の支払い口座として登録しておくこと、などを対策として行う必要があります。
名義預金の判断ポイント
チェック項目 | ポイント |
---|---|
預金をしたのは誰か(出資者) | お金の出どころは誰か? |
通帳・印鑑・キャッシュカードの管理者 | 実際に持っているのは誰か? |
利息の使い道 | 誰がその利息を使っているか? |
名義人の意思 | 本人が内容を把握・管理していたか?(未成年だと難しい) |
4.へそくり・タンス預金の忘却
タンス預金は、銀行などの金融機関に預けずに、現金を自宅などで保管しているお金のことです。
実際には、タンスのみならず、金庫の中、本棚や引き出し、壁の中や床下、冷蔵庫なんてあったりもします。
自宅などのどこかに“現金のまま”保管されている状態を総称して「タンス預金」と呼ばれます。
なぜタンス預金になるか? その理由としては、
- 銀行に預けると金利が低いからわざわざ預けようと思わない
- 急な入用の際すぐ使える
- あわよくば相続税がかからないようにしたい
タンス預金をしておけば税務署には知られないだろうと、考える人は実際にいます。
タンス預金は、税務署からはターゲットにされています。
見つかれば、たちまち加算税がしっかりかかってくるケースが多いためです。
税務調査におけるその調べ方は、
①通帳の出入りを徹底チェック
税務署は、被相続人や家族名義の銀行口座を過去10年分くらいまで遡って確認します。
例えば、次のようなお金の流れを洗い出し、「現金で引き出し」を探っていきます
毎月の収入に比べて支出が少ないのに、お金が全然残ってない
預金が減っているのに、何に使ったのか説明できない
②家の中を“目視”で確認(実地調査)
相続税の税務調査では、実際に家の中を見られることがあります。
タンス・金庫・仏壇・押し入れ・冷蔵庫の中など、怪しい場所をチェックされます。
③生活実態との整合性チェック
被相続人の生活レベル(食費、旅行、買い物)と預金残高が合わないと不自然です。
例えば「収入月10万円、支出月5万円、でも貯金ゼロ」は、現金があるのでは?と疑われます。
④親族・関係者へのヒアリング
相続人や親族に質問が及ぶことあります。ちょっとした矛盾が見つかると詳しく調べられます。
「生前、現金を持っている様子はありましたか?」
「金庫の存在をご存じですか?」
⑤過去の贈与・引き出し記録
贈与をしたとしても、それが使われないままタンス預金としてしまわれたままことがあります。
このような場合、被相続人の財産のままであるとされやすいです。
税金のリスク以外にも、タンス預金には次のようなリスクがあります
- 盗難・火災で消失するリスク
- 認知症や死亡時に家族がその存在を知らず役に立たない
- タンス預金は便利な面もあるのでついついやってしまいがちですが、どうしても避けられないのであれば、100万円を超えない金額で必要最小限に抑えておくことや、遺言書やメモで家族に知らせるようにしておくと良いでしょう。
5.一次相続対策だけではNG-二次相続との関係
相続は、親から子へ、子から孫へと財産が世代を通じて引き継がれていきます。
相続によって世代に引き継がれる過程では一旦、配偶者にある程度の財産が相続されます。
ここでは、配偶者が相続人に含まれる相続を一次相続と呼びます。
配偶者が引き継いだ財産はいずれ子世代に引き継が得ますが、子世代のみが相続人となった相続を二次相続と呼びます。
相続税対策は、一次相続、二次相続を通じて相続税が少なくなるようにプランすることが必要ですが、二次相続まで気が回らずにトータルの相続税額が増えてしまうケースがあります。
例えば、財産総額2億円で、一次相続と二次相続の配分を変えたケースで確認します。
一次相続の相続人:配偶者、子ども2人
二次相続の相続人:子ども2人
配偶者の税額軽減:最大限まで適用
(A)一次相続で配偶者が多く取得するケース
相続内容 | 相続財産総額とそれぞれ取得額 | 相続税(概算) |
---|---|---|
一次相続 | 財産総額2億円母1.6億円、子2名2000万円ずつ | 相続税額計540万円母0円(軽減)子270万円×2 |
二次相続 | 財産総額1.6億円子2名8000万円ずつ | 相続税額計2140万円子1070万円×2 |
合計相続税 | – | 約2680万円 |
(B)一次相続で子が多く取得するケース
相続内容 | 相続財産総額とそれぞれ取得額 | 相続税(概算) |
---|---|---|
一次相続 | 財産総額2億円母5000円、子2名7500ずつ | 相続税額計2025万円母0円(軽減)子1012万円×2 |
二次相続 | 財産総額5000万円子2名2500万円ずつ | 相続税額計80万円子40万円×2 |
合計相続税 | – | 約2105万円 |
(A)一次相続で配偶者が多く取得するケースと
(B)一次相続で子が多く取得するケースを比較すると、
(A)は一次相続での相続税は、1485万円少ないものの、一次と二次相続を合算したトータルでは、575万円多くなりました。
このように配偶者が多く相続すると一次相続では税金が少ないが、二次相続で子どもたちに課税されて結果的に税額が多くなる、という現象が起こります。
その原因は、二次相続は、一次相続よりも相続人数が減ることによるものです。
相続人数が減ると、相続財産の分割による母数が大きくなります。このことで相続税の総額が大きく計算されるようになります。
基礎控除額や生命保険金・死亡退職金の非課税枠は、相続人数が減るとその枠が小さくなります。
基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人数
生命保険金は、500万円×法定相続人数
死亡退職金は、500万円×法定相続人数
また、二次相続では、配偶者の税額控除特例が使えないことも大きく影響します。
6.一次相続対策だけではNG-配偶者の税額控除特例
二次相続では、配偶者の税額控除特例が使えないことから、相続税額は一次相続に比べて重くなります。
「5.一次相続だけの対策-二次相続との関係」の比較表においても、その影響は確認できました。
昨今は、夫婦ともの資産家となっているケースも見受けられます。
夫は毎年の収入が蓄積しまとまった資産をもっており、その妻も両親からの相続でまとまった資産をもっているケースです。
夫婦ともに資産家の場合には、二次相続対策はより重要になってきます。
「5.一次相続対策だけではNG-二次相続との関係」の比較表をベースに、配偶者が元来1億円の個人資産を持っている条件を加えて比較しています。
夫の財産総額は2億円で、一次相続と二次相続の配分は(A)(B)と同じ
妻の財産総額は1億円で、子2人が均等に取得
一次相続の相続人:配偶者、子ども2人
二次相続の相続人:子ども2人
配偶者の税額軽減:最大限まで適用
(C)一次相続で配偶者が多く取得するケース
相続内容 | 相続財産総額とそれぞれ取得額 | 相続税(概算) |
---|---|---|
一次相続 | 財産総額2億円母1.6億円、子2名2000万円ずつ | 相続税額計540万円母0円(軽減)子270万円×2 |
二次相続 | 財産総額2.6億円子2名1.3億円ずつ | 相続税額計5320万円子2660万円×2 |
合計相続税 | – | 約5860万円 |
(D)一次相続で子が多く取得するケース
相続内容 | 相続財産総額とそれぞれ取得額 | 相続税(概算) |
---|---|---|
一次相続 | 財産総額2億円母5000円、子2名7500ずつ | 相続税額計2025万円母0円(軽減)子1012万円×2 |
二次相続 | 財産総額1.5億円子2名7500万円ずつ | 相続税額計1840万円子920万円×2 |
合計相続税 | – | 約3865万円 |
(C)一次相続で配偶者が多く取得するケースと
(D)一次相続で子が多く取得するケースを比較すると、
(C)は(D)よりも一次と二次相続を合算したトータルで1995万円も相続税が多くなりました。
一次相続と二次相続の財産配分を変えただけでこれだけの差が出てきます。
昨今の相続では、夫婦ともに資産を持っている場合が多く、二次相続対策がより重要になってきました。
相続税対策では、目の前の一次相続だけの対策になってしまいがちですが、二次相続までを見据えて比較検討することをおすすめします。
相続税の計算は複雑でわかりにくいところがありますので、二次相続までを含めた比較検討は税理士にご相談下さい。
7.一次相続対策だけではNG-小規模宅地等の特例と資産配分
二次相続までを考えた相続税対策は、小規模宅地等の特例や資産をどのように配分するかといった内容面にも気を配る必要があります。それぞれ事例を使って解説します。
(1)小規模宅地等の特例と二次相続
小規模宅地等の特例は、ほとんどの相続税の申告で適用されるほどメジャーな特例です。
小規模宅地等の特例について、詳しくは、
「相続税と不動産編 3.小規模宅地等の特例による節税効果」(リンク)をご覧下さい。
小規模宅地等の特例は、一次相続でなるべく子に適用したほうが有利です。
「5.一次相続対策だけではNG-二次相続との関係」の比較表(A)(B)をベースに、2億円の財産のうち1億円は貸家建付地の評価額とし、建物価格は計算上ゼロとします。 また配偶者の相続前の個人資産はゼロとします。
一次相続と二次相続の配分は、(A)(B)と同様とします。
財産総額は、貸家建付地で50%5000万円を評価減額した残額1.5億円とします。
配偶者の税額軽減:最大限まで適用
(E)一次相続で配偶者が1億円の貸家建付地全部を取得するケース
相続内容 | 相続財産総額とそれぞれ取得額 | 相続税(概算) |
---|---|---|
一次相続 | 財産総額1.5億円母1.1億円(土地5千万、預金6千万)子2名預金2000万円ずつ | 相続税額計400万円母0円(軽減)子200万円×2 |
二次相続 | 財産総額1.1億円子2名5500万円ずつ | 相続税額計960万円子480万円×2 |
合計相続税 | – | 約1360万円 |
(F)一次相続で子2人が1億円の貸家建付地全部を取得するケース
相続内容 | 相続財産総額とそれぞれ取得額 | 相続税(概算) |
---|---|---|
一次相続 | 財産総額1.5億円母5000円(預金のみ)子2名(土地2500万円、預金2500万円)ずつ | 相続税額計996万円母0円(軽減)子498万円×2 |
二次相続 | 財産総額5000万円子2名2500万円ずつ | 相続税額計80万円子40万円×2 |
合計相続税 | – | 約1076万円 |
(E)一次相続で配偶者が1億円の貸家建付地全部を取得するケースと
(F)一次相続で子2人が1億円の貸家建付地全部を取得するケースを比較すると、
(F)が、一次と二次相続を合算したトータルでは、284万円少なくなりました。
(F)一次相続で子2人が1億円の貸家建付地全部を取得するケースで、相続税が少なくなる理由は、配偶者の税額軽減とも関係があります。
配偶者は税額軽減の特例を使うことで、納税額は大きく抑えられ、ゼロになることも多くあります。
このような場合、配偶者は税額軽減の恩恵のない他の相続人に小規模宅地等の特例を使うほうが、ムダなく特例を活用できることになります。
相続税の申告において、配偶者に小規模宅地等の特例を使っているケースを見ることが有りますが、相続人に子がいる場合には、二次相続まで考えるとトータルの相続税が増えてします場合もありますのでご注意下さい。
(2)資産配分と二次相続
「(1)小規模宅地等の特例と二次相続」で小規模宅地等の特例は、一次相続でなるべく子に適用したほうが有利、と解説しました。
これ以外の要素として、次の2点がポイントになります。
- 将来の値上がりが見込まれる
- 収益を生む資産
①将来の値上がりが見込まれる
将来の値上がりが見込まれる資産は、子が相続すると有利です。
例えば、不動産は長期的にはインフレ率に伴って価値は上昇します。一次相続が発生した時点よりも二次相続の発生した時点の価格が上がっている可能性は高く、その価値の上昇分だけ相続税の負担が増えます。
同様のことは、業績好調な自社の株式や、開発計画が定められている地域の土地なども値上がりする可能性が高く、これらをまだ評価が低い時点と想定される一次相続で子世代に相続させておくことも有効な対策といえます。
②収益を生む資産
収益を生む資産は、子が相続すると有利です。
例えば、賃貸住宅などは安定した家賃が入ります。配偶者が収益を生む資産を相続した場合、その収益のうち使われなかった金額は資産として次の相続財産となります。
一次相続と二次相続の間の期間が長いほど、収益は配偶者の資産として増大していきますので、相続対策としては不利になります。
子世代が、収益を生む資産を相続した場合には、その資産増大による相続税の負担を減らすことが可能であり、一次相続において子世代に相続させておくことは有効な対策といえます。
なお、これらの対策はそれぞれのご家庭の事情や相続人の構成によっても違ってきます。
これらの対策は基礎知識としてご活用いただき、具体的な対策については税理士など専門家にご相談下さい。