当ブログで、2月20日に掲載したサムスン相続争いの続報です。
イ・ゴンヒ氏(サムスン会長)に対して、他の相続人から707億円にも及ぶ支払請求(遺産分割請求)が出され、争いが泥沼化してきました。

サムスン、お家騒動泥沼化 後継ぎ「一文も出さぬ」

親族関係と相続争いの経緯は、2月20日ブログをご覧ください。

相続では、故人の全ての財産を相続人に分割します。わかりやすく言い換えると「精算」です。遺言があればこれに従い、なければ相続人全員の協議により、争いとなれば法律に従って「精算」されます。相続人が生前に贈与を受けていれば同じく「精算」されます。生前に贈与された財産が、故人の死亡時点で現存していない場合には、現存する相続財産で加減して相続人の持分が保たれるように調整されます。

相続で見落とされがちなのが、第三者名義の財産です。
「精算」の対象には、第三者名義となっていても、実質的に故人の所有であれば、当然含まれます。しかし、遺言がされていないことや、名義が違うため相続人が気付かないため「精算」されていないことが往々にしてあります。報道にあるように、第三者名義であっても故人の財産であれば「精算」するべき対象ですから、イ・ゴンヒ氏が述べている「各兄弟姉妹とも前会長の生前に十分な額を贈与してもらっているから一切払わない」という主張は、道理に合いません。第三者名義の財産は、ひとたび訴訟となると請求者の主張が通りやすい傾向がありますから、イ・ゴンヒ氏側が分が悪いといえます。

やっかいなのは、争いとなっているのが会社の支配株式である場合です。
会社の支配株式は、株式上場対策として第三者名義に変える手法が、よく使われます。
相続争いで訴訟となれば、支配株式そのものがまな板の上にのせられ審理されますから、裁判の次第によっては、株式が分散することになります。
支配株式が相続によって分散してしまうと、後継者による支配力の低下、経営の不安定化、業績悪化という悪循環に陥ることがあります。

サムスンは、これまで冒険的ともいえる設備投資を実行し、ことごとく軌道に乗せてきたことで、世界最大の電器メーカーにのし上がりましたが、これは強力なトップダウン経営によるところが大きいといえます。今回の相続争いで支配株式の分散が進むと、即決即断ができなくなり投資判断が鈍くなります。日本の電器メーカーは、経営者による支配力不足を原因として意思決定が遅くなり、サムスンに遅れをとりましたが、サムスンも同じ道をたどり「普通の会社」となっていくかもしれません。

会社を安定させるためには少なくとも50%の議決権が必要です。衰退させないためには、イ・ゴンヒ氏は、たとえ借金をしてでも金銭で「精算」するほうが良いでしょう。
(説明は日本国民法を前提にしていますが、韓国もこれに近い制度になっていると聞いています)