サムスングループは、イ・ビョンチョル氏が創立し、二代目の三男イ・ゴンヒ氏(現会長)、三代目イ・ジェヨン氏(現社長)を通じて順調に拡大し、現在では総売上げ21兆円超の巨大コングロマリオットを形成しています。
その強さの根源は一族支配によるトップダウンと徹底した競争主義から生み出されています。

今回、この巨大グループにおける相続争いが表面化しました。

サムスン創業家、遺産相続争いで訴訟 :日本経済新聞

発端は、5年前に発覚した借名口座事件です。
この事件は、サムスン生命やサムスン電子などのグループ会社の株式が、サムスングループ関係者約500人を無断で名義人とした総額2870億円にのぼる借名株式の存在が明らかとなったことから各方面で大きく報道されました。この借名株式の実質的な所有とされた三男イ・ゴンヒ氏(当時社長)は、裁判において脱税の有罪判決を受け、この事件を契機に経営の第一線から退くことになりました。

ところで借名口座には、三つの効果があったと考えられます。
  一つは、兄弟姉妹に知らせずに相続財産から除外する相続対策
二つは、相続財産を減らすことによる相続税対策
三つは、政治家に対するロビー対策といった秘密の工作資金

この三つの効果が三男イ・ゴンヒ氏がグループを支配するための力の源泉となったといえます。

借名口座はいわば隠し財産といえるものですが、刑事事件によりその存在が明らかとなったことで、三男イ・ゴンヒ氏は、特検捜査で明らかになった借名株式を全て実名化しました。

さてここからが、民事である相続争いの幕開けです。
長男イ・メンヒ氏が、「借名口座の株式は相続財産であるから再度分割すべきだ」として、三男イ・ゴンヒ氏に対して相続財産分割訴訟を起こしました。イ・ビョンチョル氏の相続財産であったものを、三男イ・ゴンヒ氏が隠していたとすれば、相続は終わっていないことになるからです。

この訴訟の結果はまだ先ですが、次の二通りが考えられるところです。
長男イ・メンヒ氏が勝訴するケース
借名株式は分割され三男イ・ゴンヒ氏の手を一部離れる。その結果、サムスングループの株式による支配は薄められる
三男イ・ゴンヒ氏が勝訴するケース
三男イ・ゴンヒ氏は時効消滅を主張しているが、これを根拠に勝訴した場合、莫大な相続税または贈与税負担が生じる可能性がある。
(なお、韓国の相続税は、日本と同程度の重さです)
とどちらにしても、大きな負担が待ち構えています。

さらには、いまのところ静観している残りの兄弟姉妹の6人が相続財産分割訴訟を今後起こす可能性が大いにあることも、サムスングループの今後に大きく影響を与えます。

サムスンに限らず一族会社で相続が発生すると、一族の中で株式が分散し、後継者による強力なリーダーシップが発揮しにくくなり、徐々に会社が弱体化していくことが往々にあります。
通常であれば、生前から後継者として最も相応しい相続人に中心となる株式を集中し、他の相続人には相応の金銭や別の財産を分け与える対策を行いますが、サムスングループは巨大すぎて簡単ではなかったのでしょう。

それにしても借名株式という隠し財産による方法は避けるべき方策でした。
先に説明した借名口座の効果は結局、表面化することによりすべて効果が失われてしまいました。